新春特集=ジェット燃料相場がカギを握る?
2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大でジェット燃料相場は苦境に立たされることになった。新型コロナウイルスは2019年末に発生が報告されて以来、世界中に感染が拡大。特に欧米では都市の封鎖(ロックダウン)が実施され、日本でも緊急事態宣言が出されるなど、社会の様相は大きく様変わりした。2020年に開催が予定されていた東京オリンピックも翌年に開催がずれ込んでいる。このような状況下で海外渡航は制限され、2020年12月に至っても国際線のほとんどが運休、ないしは間引き航行だ。2020年は世界的にもジェット燃料需要が大きく落ち込んだ年となった。国内の大手元売り各社もジェット燃料の生産を抑え、灯油や軽油に振替えるなど、精製オペ―レーションのも見直しを進めている。全体の生産量抑制としてトッパーの稼働を低めにし、ガソリンは輸入でカバーしている。
国際航空運送協会(IATA)によると、2019年の世界ジェット燃料使用量は3億6,300万klだったが、2020年は2億2,800万klと37.2%も減少する見通しだ。航空需要が持ち直すと見込まれる21年も2億7,900万klと19年比18.2%減の水準にとどまると予測されている。
国内でもジェット燃料の販売は伸び悩んだ。政府による外出自粛要請もあり、航空需要が大きく低迷した影響が大きい。全国的に緊急事態宣言が出された20年4月、5月のジェット燃料販売量はそれぞれ10万klに留まった。その後、7~8月はそれぞれ30万3,781kl、36万6,016klと3月ぶりに30万klを突破した。ただその後は9月に入り落ち込み、10月の販売量は26万1,045klに留まっている。10月は前年比40%の落ち込みとなった。
外務省によると、12月8日時点で日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置を取っている国と地域は74カ国地域、入国後の行動制限をとっているのは104カ国と地域となっている。また、一部の地域を除き、全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)の国際線も運休や減便が続いている。
IATAが11月に発表したレポートでは2021年の航空業界も依然として厳しい状況が続くとしている。2021年の航空会社全体の損失額は387億ドルと予測されているものの、個々の項目では2020年よりは大幅に改善すると予想されている。ただ、コロナ流行以前の数字に戻るには依然時間がかかりそうだ。
ANAが発表した2021年3月期業績によると、今後の見通しは依然として厳しい状態が続きそうだ。ANAは連結業績予想について「下半期は需要は徐々に回復に向かうものの前期水準まで戻ることはない」と述べたうえで21年3月期までの売上高を前期比62.5%減の7,400億円と予想している。一方、JALも2020年度の売上収益を5,300~6,000億円の間と予想している。
このような苦境の中でも、航空業界は環境対策に取り組み始めている。その一つがSAF(Sustainable Aviation Fuel)と呼ばれる新しい航空燃料の導入だ。SAFは収集から燃焼の過程に至るまでCO2の排出量の少ない供給源から作られる燃料を指す。世界的に「脱炭素」の動きが加速していく中、ジェット燃料も改革が迫られている。
ANAは10月末にフィンランドに本社を置くNESTE社とSAFの調達に関する覚書を締結した。NESTE社のシンガポール工場からSAFを調達し、日本発の定期便に使用する。また、同社は出光興産など数社とともに工場などから排出された二酸化炭素を用いてジェット燃料に再利用するビジネスモデルを検討している。
JALグループも2020年6月に2050年度までにCO2排出量実質ゼロを目指す長期目標「ゼロエミッション」を策定した。具体的な取り組みとしてバイオジェット燃料の開発促進と活用を目指している。2021年はこうしたCO2削減に向けた取り組みも一層広がっていくと思われる。