欧州会計検査院(ECA)が17日に発表した報告書は、欧州連合(EU)の水素政策について、2030年の生産・需要目標が過度に｢野心的｣であり、実態を確認する必要があるとの見方を示した。報告書は、欧州委員会が再生可能な水素の生産と輸入の2030年までの目標量である各1,000万トンを、綿密な分析ではなく政治的判断に基づいて設定したと指摘。再生可能な水素を定義するルールの構築にも時間を要し、多くの投資案件の決定が延期されたとみている。供給が需要に依存する一方で需要も供給に依存するというジレンマから、プロジェクトの開発者が投資を先送りした例もあるという。

報告書は、EUの水素産業の育成には官民の巨額の投資が必要だが、欧州委はニーズや利用可能な公的資金の全体像を把握していないと分析。2021年から2027年の規模が188億ユーロ程度と推計される関連投資が複数のプログラムに分散しているため、企業がプロジェクトに最適な形式で資金調達することが困難になっている面もあるとされる。

報告書によると、再生可能な水素に関する資金の提供先は、脱炭素化の困難な産業の占める割合が大きい。特にドイツやスペイン、フランス、オランダで計画されている先進的なプロジェクトで資金の大部分が利用されている。一方で、EUの水素生産の可能性を十分に活用できるという保証はまだないとみている。生産の可能性の高い国から産業需要の高い国へと経済地域の枠を超えて再生可能な水素をEUが公的資金により輸送できるとは限らないとした。