記者の眼記者の眼

第258回 (2024年8月14日)

 「年に一度の決算セール!」「在庫一掃セール!」

 

 ありがちな謳い文句に誘われ、しばしばネットショッピングを利用する。オンラインで決済し、猛暑を尻目に空調の効いた室内で到着を待つ。

 

 最近、注文した商品の到着が遅くなった。即日配送という広告文句もいつの間にか対象の商品は減り、1週間、ものによっては1カ月待つこともざらだ。到着予定日を確認し、この週末に必要なものだったのに、と準備不足の自分に呆れることもしばしばある。

 

 運送業の人手不足。ニュースでも、日々の取材でも、ことさら耳にする。少子高齢化による労働人口の減少、過酷な労働環境など、複数の要因が絡み働き手は減少し続けているという。運送を必要とする仕事はあるのに人手が足りないことで起こる、いわゆる「人手不足倒産」も深刻だそうだ。

 

 先日、自宅へ荷物を届けてくれたのは、還暦をとうに過ぎた父よりひと回りは年上に見える男性だった。外気温は38度を超え、不要不急の外出を控えるように、クーラーは積極的に使用するように、と日に何度も市内放送がかかる。

 

 ありがとうございました、と律儀に帽子を取り、頭を下げる姿に、なんだか恐縮した。せめてと思い冷えたペットボトルのお茶を差し出すと、規則だから受け取れない、という。小走りに配送トラックに戻る後ろ姿が、逃げ水の向こうに揺らいで見えた。

 

 人手不足。情報からは単なる数の増減と捉えてしまいがちだが、その先に人それぞれの営みがあることも、忘れたくないと思う。

 

(栗原)

 

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