記者の眼記者の眼

第253回 (2024年7月10日)

 新しいことにチャレンジするというのは人間にとってある種のストレスらしい。人間の脳は変化を嫌い、常に同じ状態を保とうとする性質がある、と聞いたことがある。

 

 私の父は定年退職を数年後に控え、長く在籍していた部署から物流部に異動になった。若い頃は出張で海外を飛び回り、愛着があったはずの営業から畑違いの部署への異動。しかも、新しくできた後輩は英国でMBAを取得した20以上も年の離れた若者で、日ごろの会話から知らないビジネス用語や英語が飛び出す始末。定年前に辞めちゃうかもしれないな、と密かに思い、父の会社員生活の行く末を心配した。

 

 1カ月も経つと、父は物流関連の本を買い込んで毎日せっせと読むようになった。また、後輩との会話で習得したビジネス用語や英単語をメモに取り、彼(後輩)の名前を頭文字に「○○語録」と名付けた用語集を作り始めた。「KPIって知ってる?」など、新しい用語を習得するたびに聞かれるのはやや面倒だったが、あの時ほど父が嬉しそうに仕事を語っていた時期は無かった。

 

 毎日レポートを発行し、同じ仕事の繰り返しのように思えるリムの仕事でも変化や新しい波はやってくる。脱炭素、新燃料、業界の変化以外にも、社内の人事異動など、これまでのやり方や考え方から脱却しなければならないときが迫る。脳がストレスに感じても、心の在りようで人は適応できるはずだ。私も父のように、変化とともに前に進める人間でありたいと思う。

 

  

(柏原)

 

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