記者の眼記者の眼

第250回 (2024年6月19日)

 少し前に関西電力が山形県で検討していた風力発電事業を中止するとのニュースを見た。事業中止の原因には、風車の建設を予定していた地域が絶滅危惧種であるイヌワシの生息地だったことが挙げられていた。そこで動植物と風力発電の関係について調べてみると、国内22カ所の風力発電所で発生したバードストライクの件数は、2000年からの10年間で合計102件。このうち半数が猛禽類のため、保護団体らは風力発電事業拡大に反対しているようだ。

 

 ではイヌワシなどが好まない土地に建設すればいいのではないかと思ったが、どうやら猛禽類の住処や狩場は風が強い平野が多く、これらの土地が風力発電の最適地なのだそうだ。2050年のCO2(二酸化炭素)排出を実質ゼロとする目標に向け、風力発電に対する期待は高まっているが、持続可能な地球環境を実現するためには脱炭素だけにフォーカスするのでは不十分だと痛感した。

 

 次世代エネルギーとして期待されている水素やアンモニアも研究開発やサプライチェーンの構築が進めば、予期せぬ問題が見つかることがあっても不思議ではない。それでも脱炭素社会の実現のため、今の歩みを止めてはいけないが、その時に何かを切り捨てるような社会になってほしくないとも思う。イヌワシが安心して暮らせる環境は、きっと人間社会にも恵みをもたらしてくれると信じている。

 

( 朝比奈 )

 

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