記者の眼記者の眼

第245回 (2024年5月15日)

 私の家には洗濯機がない。コインランドリーも利用しない。すべて手洗いだ。

 

 昭和30年代初期には、白黒テレビ、電気冷蔵庫とともに「三種の神器」として君臨した電気洗濯機だが、令和の時代でさえ私の家には存在しない。現代を生きる我々の生活に欠かすことのできない洗濯機。なぜ私はそれを買おうとすらしないのか。

 

 学生時代にもひとり暮らしを経験した。両親が家電を買い揃えてくれたこともあって、当時は私の家にも一台の洗濯機が存在していた。ことの発端は、大学の卒業式を終えた翌日からのこと。引越し作業と部屋の退去日とにズレが生じ、私は3日半もの間、家具なし、家電なしの生活を強いられた。そこで気づきを得た。手洗いで事足りると。ときに脱水機能こそ欲しくはなるが、それでも、独り身ゆえに洗濯物の量など限られているし、温水を使えば汚れもよく落ちるうえ、少なからず電気代や水道代の節約にもつながる。そして何より、モノのありがたみを実感することができる。私はこの洗濯スタイルを気に入っている。

 

 昨今では、水素、アンモニア、バイオなど、これまでの化石燃料に取って代わるとされる新燃料の開発が進められている。ところがどうだろう。私たちは文明を発展させるばかりで、なにか大切なものを見失ってはいないか。ときには立ち止まり、原点を顧みる時間も必要だろう。今日もベランダでは、びしょびしょのシャツが太陽を浴びて輝いている。

 

( 山根 )

 

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