記者の眼記者の眼

第213回 (2023年9月20日)

 少し前にトヨタが販売する燃料電池車のMIRAIに乗る機会があった。実車を見るまでは、「フロントマスクがカムリに似ているなぁ」とか「水素ステーションが普及しないと苦労しそう」といった感想しか持たなかったが、乗ってみると高級セダンの快適さと、モーター駆動特有の加速感に好感触を抱いた。調べてみるとレンタカーの貸出しをしているようなので、また乗ってみたいと思う。

 

 ただMIRAIを購入することは難しいとも感じた。車両価格が高いこともあるが、水素の価格とサプライチェーンに対してハードルが高いためだ。現在水素ステーションで販売している水素は、1キログラムあたり税込み1,210円。MIRAIの燃費などを考慮すると、この価格は決して高いわけではなく、1リットルあたり10キロメートル強走るガソリン車と大きな差はない。

 

 しかしこの価格は燃料電池車を「普及させるためにガソリン車と同等のコスト」になるよう算出されており、機材や水素の燃料となるLNGの輸入コストを転嫁した場合、大幅な値上げは避けられない。その時、燃料電池車は燃費面でガソリン車に太刀打ちできないだろう。また全国にガソリンスタンド数が約28,000カ所あるのに対し、水素ステーションは約160カ所。しかも東京や大阪など都市部に集中しており、燃料補給は容易とは言い難い。一般普及のためのハードルはまだ高いと言える。

 

 この課題は燃料電池車だけではなく、石油燃料から脱却を目指す社会全体の課題でもあるだろう。目の前にある課題を着実に解決することが脱炭素化社会の実現に必要なのだと思う。

 

(朝比奈)

 

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