記者の眼記者の眼

第207回 (2023年8月9日)

もう十何年前になろうか、詩の朗読会で谷川俊太郎の「朝のリレー」を詠んだ。

この詩の好きな点は、自分の今日が誰かの明日へと紡がれ、各々が繋がっていることと感じる。

「ぼくらは朝をリレーするのだ 経度から経度へと」

海運業界は、まさにリレーだ。

アジアのマーケットの流れを中東や欧州が受け継ぎ、バンカー油(船舶燃料)価格が変動する。

米国で発生した港湾ストライキが、世界の海上輸送に影響する。

欧州で盛り上がる代替燃料のトレンドが、世界に広まる。

 

その国、その地域の港湾状況や需給動向が、別の港に影響を与える。

毎朝、頭の中で世界地図を広げ、点と点の港を線でつなぐ作業をすれば、

自ずと各港と海運物流の今を把握できる。

 

「この地球では いつもどこかで朝がはじまっている」。

そうまさに、地球上の主要港に注目し、その港の燃料油の受け渡し状況を確認するところから私の朝は始まる。

もし受け渡しでトラブルがあれば、次のどの港に影響があるのか自ずと見える。

取材先であるバンカー油の作り手や売買関係者の顔が分かると、有事の際は余計に彼らを想い人間臭く心を痛めることもある。

 

バンカー油の記者として、市況や海運マーケットを把握し伝えることは、世界経済を支える一ピースである業界のリレーをささやかながら受け止め、関係者にバトンを渡し、明日へと紡ぐ作業ではないだろうか。

詩の結びのように。

「それはあなたの送った朝を 誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ」

 

(山岡)

 

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