記者の眼記者の眼

第199回 (2023年6月14日)

 「テレビの情報番組では、専門家ですら偏ったコメントしかできない」

 

 コロナ対策の行動制限の終了後、数年ぶりに対面型のセミナーに参加した。テーマはエネルギーを取り巻く国際情勢。講師はこの研究に生涯を捧げ、日本のエネルギー政策にも影響を与えたA氏だ。セミナーでは主題の内容以外に、ある別の論点が印象に残った。これが冒頭のひとことだ。

 

 A氏は、ロシアとウクライナの軍事衝突が始まった昨年2月、あるテレビ局から朝の情報番組へのコメンテーターとして出演依頼の打診を受けた。その打ち合わせの段階で、同氏は学術的な知見を踏まえ、「侵略を受けた」ウクライナ側の視点に加えて、ロシア側から見た「特別軍事作戦」の正当性も解説することを強く提案。しかし、番組側は受け入れず、最終的にA氏の出演は見送られた。同氏の代わりに出演した「専門家」は、ウクライナが被害者という視点での解説に終始していたそうだ。出演の機会を逃したA氏は「あれはミスリードだが、あれこそテレビが求める専門家なのでしょうね。ははは。」と自嘲気味に講演で漏らした。ただ、続けて彼は「私はせめて参加者を目の前にした対面での講演では多角的、正確に伝えたい」とも述べた。

 

 今回、ふたつのことを感じた。ひとつは対面での取材で得られる情報の正確さ。もうひとつは、市場関係者というプロを読者とする専門紙の記者として、すべての情報を世に送り出すことができることの幸福さだ。

 

(橋本)

 

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