記者の眼記者の眼

第188回 (2023年3月22日)

 意識がスマホ画面から離れ、目前の2人の会話に向かった。電車中で大学生と思しき青年が、二回りほど年の離れた男性に話していた内容はこうだ。「僕の彼女がとても厳しいんです。サークルの飲み会も女子がいたらダメ。SNSのフォロワーをすべてチェックされ、女子の影があると尋問を受けます。友人や母親に相談すると、みんな交際をやめておけというんです」。

 

 人の発言の動機は気になるタチで考え込んだ。青年はなぜそんな話をしたのか。愚痴だろうか。それにしては真剣に悩んでいる風がない。彼女に愛されていることを自慢したかったのか。いや、周囲の人に心配されているのだから、自慢にならないのはわかるはずだ。

 

 奇妙な恋愛体験を滑稽話として披露したのか。あるいは、誰もが一家言持っている恋愛ネタで、共通点の少ない相手との会話を盛り上げようとしたのか。しかし、相当の年配者に提供する話題とは思われない。

 

 青年の人柄や年配者との関係性などの情報不足もあり、しっくりくる結論を得られぬまま降車駅に着いた。市場でのポジショントークであれば、利益の最大化という発言者の意図は明確だが、日常の会話ではよくわからないことがしばしばある。

 

 一旦考えることを止め、電車を降りた。そのとき青年のある言葉が脳裡に引っかかっていることに気がついた。――「母親に相談する」。衒いも恥じらいもなく、ごく自然に青年の口を衝いて出た言葉が謎を解く手掛かりになりそうな気がした。

 

(須藤)

 

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