記者の眼記者の眼

第164回 (2022年9月21日)

 「密です」

 

 新型コロナウイルスの感染拡大が社会を揺さぶり、政府が初めて緊急事態宣言を発出した20204月以降、いわゆる3密を避ける風潮が世に広まった。感染を防ぐため、密閉、密集、密接の状態に身を置かないことが推奨されたわけだ。注意喚起を促すため、東京都知事がしきりにこの言葉を繰り返した映像が脳裏に焼き付く。以来、私自身、この「密」という言葉には、どこかネガティブな印象を抱くようになった。

 

 もともと「密」という言葉には、物理的、心理的な距離が近いこと、またひそかにしていることなどの意味があり、それ自体にネガティブ、ポジティブな要素を含んでいないはずだ。使われる文脈によって私たちの印象が変わるのだろう。

 

 では、ポジティブな使われ方はどうだろう。「家族や友人との密な関係」、「この本には情報が密に詰まっている」などなど。リムの仕事に目を転じれば、職場の同僚と密な情報交換をしたり、取材先と密な信頼関係を築くことで、よりよいレポートを作ることができるだろう。本来、私たちの社会は人との強い関係で成り立っており、ポジティブな文脈で使ってこそ、「密」の意味が生きてくるのだと思う。

 

 8月、夏の甲子園で初めて全国制覇した仙台育英高校の監督が優勝後に発した言葉がひとしきり話題になった。「青春って、すごく密なので」。閉塞感が続くいま、久しぶりに聞くポジティブな「密」という言葉に、多くの人が心を揺さぶられたに違いない。

 

(二川)

 

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