記者の眼記者の眼

第149回 (2022年6月8日)

 子供の頃読んだ本に描かれていた未来の世界では、タイヤの無い車が、高層ビルの間に張り巡らされたチューブの中を滑っていた。あれから半世紀近く経ち、動力源はようやくガソリン、軽油などの化石燃料から、EV(Electric Vehicle)FCV(Fuel Cell Vehicle)などの燃料電池に移行し始めた。ただ、車体は宙に浮くこと無く、大地を踏みしめ走り続けている。技術的な問題はさておき、未来予想図と異なる結果になった理由は、空飛ぶ車にそこまでの優位性が見いだせなかったからではないかと考えている。

 

 国際海運の世界では、GHG削減に関する国際海事機関(IMO)の戦略に基づき、2030年および2050年の目標値達成を目指し、LNG/LPGなどのガス燃料の運用、アンモニア、水素などの脱炭素エネルギー、さらには燃料電池(Fuel Cell)、風力エネルギーの実用化に努めている。日本国内でもLNG燃料船の竣工、アンモニア燃料船の開発のニュースが日々報道されている。ただ、これらの動きは、財力を有する大手船会社に限られており、中小以下の船会社は様子見の姿勢を保っている。現時点では莫大な設備投資、運用コストに対し、環境に配慮した企業であることをアピールする以外の優位性が見いだせないからだろう。

 

 ただ、最近では新型コロナウイルスの感染拡大、ロシア軍のウクライナ侵攻など、想定外の出来事により、石油製品は空前の高値を記録している。化石燃料に向かい風が吹きつけるなか、新技術が未来予想図に描かれた海原へ漕ぎ出せる日が来ることを祈るばかりだ。

  

(小泉)

 

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