記者の眼記者の眼

第136回 (2022年1月26日)

 先日、九州にある小村の神社で推定樹齢300年の御神木を伐採したという話を聞いた。倒木による人的被害が出る前に、境内にある御神木をすべて伐ってしまおうということのようだ。古来、境内の樹木は御神木として神聖視され、伐採されることはなかったはずだが、近年は伐られるケースが増えているという。

 

 御神木を伐る決断に至る主な理由は、人の手に余り管理しきれなくなったからという場合が多いようだ。これを住民の高齢化や維持管理費の負担の重さなどで説明することは難しくないが、同時に「伐っても神罰が下ることはない」というある種の安心感があるからだと私は思う。神様が畏れの対象でなくなったから、これまでタブーとされてきたことにも手を付ける度胸が付いたと言えばいいだろうか。

 

 これを良いことか悪いことかは別として、価値観の変化を実感できる点においてこの話にはとても興味をそそられる。価値観は突然切り替わるのではなく、受け継がれてきたものが徐々に変化する。その変化の途中に新旧の価値観が混在する瞬間があり、まさにそれが今なのかもしれない。

 

 エネルギー業界も今、転換の時にある。期待されるようにクリーンエネルギーは世界に普及するのか、化石燃料はこれから無用の長物となってしまうのか、今はまだ分からない。ただエネルギー業界も価値観の転換の中にあるのは間違いない。この変化の瞬間に身を置き、その一端を記事に書き記すことができたら幸いだ。

 

(朝比奈)

 

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