記者の眼記者の眼

第122回 (2021年7月7日)

 「『三十歳までなんか生きるな』と思っていた」という本を読み返す。「この人の閾」で芥川賞を受賞した保坂和志氏の著書だ。彼は高校卒業間際のころ、三十歳まで生きることで十代の自分が軽蔑するようなくだらない大人になってしまうことを恐れた。ここで言う「くだらない大人」とは考えることをせず固定されたやり方でのみ思考する人間と私は理解しているが、同じような思いが十代、二十代のころにあったことを思い出した。

 

 記者という仕事に就いてもう8年目になり、毎日のレポートに関しては書き方のコツを掴みつつある。見慣れないニュースに関してもこれまでの経験に基づいて記事にできるようになった。だからこそ、本当の意味で「考えて」取材や記事の執筆をしているかを常に自分に問わないといけないと感じる。

 

 ここ数年のエネルギー業界はこれまでの価値観のみで対処しきれないことばかりと思う一方、歴史を振り返れば同じことの繰り返しと感じることも多い。業界の統合再編や新しいエネルギーへの転換なども過去に何度も起きてきたことではないか。ただ、保坂氏の著書の言葉を借りれば、「堂々巡りとしか見えない話でも、二度目三度目では必ず自分の中に変化が起こっている」という。

 

 人々や自分自身に起こるわずかな変化を捉え、「考えて」取材し記事を書かなければいけない。間もなく三十歳になるが、まだ生きている私はそう決意を新たにした。

   

 

(和氣)

 

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