記者の眼記者の眼

第121回 (2021年6月23日)

 若い世代の人は停電を体験したことがないかもしれない。私が小学生のころ、出身地の中国・福建省では毎年、真夏日の夜になると電力が不足し、計画停電を実施することがあった。暗闇で遊ぶところもなく、一晩中、蠟燭を見つめていた。今となっては懐かしい夏の夜だ。

 

 今の時代、計画停電は考えられないだろうか。昨年末から今年の年始にかけて寒波が日本列島を直撃し、全国で電力需給がひっ迫した。原子力発電所の稼働は限られ、多くの電源を火力発電に頼らざるを得ないなか、電力会社は燃料の確保に追われ、発電設備をほぼフル稼働する事態となった。幸いにも計画停電には至らなかったが、私自身は子供のころの記憶がふと頭をよぎった。

 

 昨冬の事態を招いた背景については、さまざまな要因が重なったようだ。電力小売全面自由化により、電力会社間の競争が激化。各社は燃料在庫をギリギリに抑えたため、急激な気温の変化を読めず、対応が後手に回ったとの声が聞かれた。5月に経済産業省が開いた会議では、今夏の電力需給はここ数年で最も厳しい水準になるとの見通しが示された。昨冬の二の舞とならぬように祈るばかりだ。

 

 2050年の脱炭素社会の実現を目指すには、国内の産業構造にも大きな変化が求められるだろう。安定供給、経済性、環境への配慮をバランスよく達成するには様々な課題を乗り越えなければならない。私たち自身も省エネに取り組むなどその責任の一端を担っていると肝に銘じたい。

  

 

(方)

 

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