記者の眼記者の眼

第115回 (2021年3月24日)

 レイモン・アロンはフランスの社会学者で多元的視点からマルクス主義を批判し、『知識人の阿片』を著した人物である。アロンは20世紀後半期の最大のリベラリストと呼ばれ、哲学や歴史、社会学、政治的考察など膨大な著作などを残している。アロンが一貫して貫いた姿勢が、たとえ最善ではないとしても最も害が少ない選択をし、冷徹な眼で考察するというものだった。

 

 国連は二酸化炭素(CO2)の排出量削減に向け、経済協力開発機構(OECD)加盟国に対して「2030年までに石炭火力を段階的に廃止するよう求める」と述べた。10年比で80%削減しなければならないというが、なかなか困難な目標に映る。日本は石炭火力の比率が30%程度と高く、段階的に廃止することも容易ではない。仮にCO2を排出しないとされる原子力を推進すれば、賛成派と反対派の間で大きな議論が巻き起こるだろう。一方、太陽光の普及が進んでいるが、森林を伐採して巨大なパネルを設置することが逆に環境に負荷をかけているとの指摘もある。

 

 そもそも環境問題とは複合的要因が絡んでいるはずだが、CO2の排出のみに注目が集まっている現状に違和感を覚えることもある。人的要因と自然要因を冷静に見極めなければいけない。

 

 天然資源の多くを輸入に頼る日本にとって脱炭素化を進めるのに最善の方法は何なのか。アロンのように冷厳な姿勢で事実を認識し、最も害のない選択をしていくことが必要だろう。

  

(青山)

 

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