記者の眼記者の眼

第112回 (2021年2月10日)

 「備えあれば憂いなし」という諺がある。普段から準備をしておけば、いざという時に心配がいらない、という意味だ。では備えがないと一体どうなるか?今冬の電力相場がまさにそれを物語っている。

 

 12月半ばまで供給過多が続き、kWh(キロワット時)あたり10円以下で低迷していた翌日受渡スポット価格が、年末から日本列島を襲った大寒波の影響で一気に250円を突破し、前代未聞の暴騰を演じたのだ。原発の再稼働が遅々として進まないなか、LNG(液化天然ガス)の調達難から火力発電所が低稼働を余儀なくされたことも追い打ちをかけた。LNGも一時はコロナ禍による需要急減で荷余りが深刻だった。電力にせよLNGにせよ、いざという時に安価で容易に調達可能との機運が生まれてもおかしくない。皮肉なことに当ては完全に外れた。

 

 今回の歴史的な暴騰は多くの教訓を残すだろう。これまで未成熟な部分が大きかった電力市場の整備に向けた議論が再燃し、想定外の相場急変に備える価格ヘッジ(保険つなぎ)の重要性も認識されはじめた。電力は安定供給が最優先との現実を突きつけられ、再生可能エネルギーの推進や脱炭素化の流れにブレーキがかからないとも限らない。

 

 記者の立場を離れ、一人の生活者として得られる教訓はないか?奇しくも今年で原発停止のきっかけとなった2011年の東日本大震災から丸10年が経つ。「備えあれば憂いなし」だ。まずは身近なところで、家の防災グッズでも買い揃えてみるとしようか。

 

(狩野)

 

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